サービス内容
別居妻
別居していた妻の遺族年金請求ポイント
問題点:妻というだけで遺族年金をもらえるわけではない
あなたは、「戸籍上の妻であれば、遺族年金の受給が簡単に認められる」と、思っていませんか?実際は、戸籍上の妻であっても、別居していると遺族年金がもらえない可能性があります。遺族年金は、「配偶者」であり、かつ、「生計を維持したもの(=生計維持関係)」がもらうことができます。
~根拠条文~厚生年金保険法59条1項
『遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者等の配偶者等であって、被保険者等の死亡の当時、その者によって生計を維持したものとする。』
そして、「生計を維持したもの」とは、以下の「①生計同一要件」と「②収入要件」を満たしたもののことを指します。
【生計同一要件】
別居している場合において、生計同一関係であったと認定されるのは、どういった点が見られるかというと下記の通りです。
単身赴任、就学又は病気療養等のやむを得ない事情により住所が住民票上異なっているが、次のような事実が認められ、その事情が消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるとき
(ア) 生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること
(イ) 定期的に音信、訪問が行われていること
つまり、やむを得ない事情により夫と別居していたけれども、その事情が無くなったときは同居する予定であったし、別居期間中は夫から妻に経済的な援助があり、定期的に会ったり連絡を取っていた。
このような状況であれば、生計同一要件を満たすことになります。
【収入要件】
収入に関する認定については、次のいずれかに該当すれば大丈夫です。
ア 前年の収入(前年の収入が確定しない場合にあっては、前々年の収入)が年額850万円未満であること
イ 前年の所得(前年の所得が確定しない場合にあっては、前々年の所得)が年額655万5千円未満であること
ウ 一時的な所得があるときは、これを除いた後、前期ア又はイに該当すること
エ 前期のア、イ又はウに該当しないが、定年退職等の事情により近い将来(おおむね5年以内)収入が850万円未満又は所得が年額655万5千円未満となると認められること。
妻の前年の収入が850万円未満、又は所得が655万5千円未満であれば、収入要件はクリアします。
この基準額を上回っている場合は、ウかエに該当すればOKです。
妻であり、かつ、生計を維持したもの(生計同一要件+収入要件を満たす)であれば、遺族年金を受給できます。
そのため、別居していた場合は、生計同一要件を満たすために、別居期間中に経済的な援助や、定期的な音信訪問があったことが認められることがポイントとなります。
別居していても受給できる代表的なケース
たとえば、ご主人が単身赴任の為、別居していたようなケースで、
①毎月、生活費として10万円送金してもらい、その事実が通帳で確認できる。
②毎週末、家には帰ってきていた。
というケースは、遺族年金の受給が認められやすいと思われます。
別居していることで受給が難しい代表的なケース
一方、たとえば、浮気とか性格の不一致というようなことが原因で何十年も別居していたようなケースでは、
①別居してからしばらくは生活費の送金があったが、もう何年も前から生活費は送られてない。
②何十年も音信不通
このようなケースだと、経済的援助及び定期的な音信・訪問が無いので遺族年金の受給が認められないと思われます。
次に、社会保険審査会の事例で受給が認められたケースですが、
別居していた妻の案件で、認められた事例
請求人(妻)と亡夫は、平成○○年から別居し、○○年○月から住民票上の住所も別である。しかしながら、
①別居の原因は、亡夫の暴力にあり、また、実家の母が高齢で請求人がその介護をしなければならない事情があった
②請求人と亡夫は、別居後も電話で連絡を取り合い、亡夫も請求人が母の介護をすることを了承しており、両者の間に離婚の話合いはなかった
③亡夫は、子らに対しては、請求人の生活を案じる気持ちを述べており、回数や金額は判然としないものの長男を通じて生活費を渡すことがあった
④請求人は、亡夫の配偶者として、60歳まで国民年金の第3号被保険者であった
⑤亡夫は、平成○○年○月、請求人に対して生活費として100万円を渡した
などの事情があり、これらのことからすると、請求人と亡夫との婚姻関係は希薄といえるもののなお継続しており、生計維持関係が保たれていたものと認められのが相当である。
~社会保険審査会裁決事例より~
その他、社会保険審査会の裁決例で見受けられる経済的援助、音信・訪問の判断
【経済的援助】
<経済的援助あり>
・自宅を妻に贈与し、その光熱費及び固定資産税を夫が支払っている。
・夫が妻に取得させていた退職年金について、制度改正がある度に手続きに誤りなきようアドバイスをしていたという事実は、愛情と信頼に裏付けられた協力扶助義務履行のありようとして十分に評価することができる
<経済的援助なし>
・経済的援助を裏付ける客観的な資料の提出はない。
・夫から子の養育費の一部程度の送金があった可能性が考えられるとしても、母子の生活の根幹は生活保護によるものであったと言わざるを得ない。また、夫は晩年は病身で稼得もなく自ら生活保護を受けて病院に入院ないし老人ホームに入所していたことから、その仕送りによって妻が生計を維持したと主張したとの主張を認めることは一層困難である。
・夫が妻の居住していた自宅や田の固定資産税を支払っていたので、これにより請求人も経済的な利益を受けていたとはいえるものの、もともとこれらの不動産は、夫の所有するものであって、これを夫が支払うのは当然ともいえることである。
・生活費などの経済的援助については、婚姻費用の分担(民法第760条)によるものであるから、婚姻費用の分担の趣旨に出たものでないと認められるものは、金銭的な援助があったとしても考慮されず、また、当該生活費などの援助は夫婦の資産、収入等を考慮して妥当な水準のものでなければならず、そうでない水準のものは、たとえ金員の接受があったとしても、夫婦間の生活費等の援助とみなされないことは当然である。
・本件の場合、請求人が主張するような毎月生活費を援助していたかどうかが問題となるが、請求人は生活保護受給者であって、その最低限度の生活の基本を生活保護費で賄うことが可能であり・・・以上のことから、生計同一と認められない。
・妻と離れて暮らす未成年の子に夫が経済的援助をしたとしても、それをもって妻に経済的な援助をしたとみることはできない。
・夫は月額22万円程度の給与収入があったのであり、月額5千円~1万円という額は、生活費の援助とはみなせないほど低額である。
【音信・訪問】
・夫の精神状態に対しても、同居して介護するとか医療機関を受診させる等の処置を講ずることもなく、漫然と訪問していたとする請求人の主張は、通常の夫婦としてのあり方として不自然であり、現実性に欠ける。夫と妻は、長年にわたり、事実上音信途絶の状態にあったと推認される。
・「音信がある」とは、夫婦としての意思疎通の存在を窺わせるものがある一定の頻度であることと解するのが相当である
・妻は、夫が働いていた店に知人等が訪れ、夫の情勢がそれなりに耳に入ってきたと主張しているが、たとえ知人等を通じて夫の状況を把握していた事実があったとしても、それをもって妻と夫との間に音信があったとまでみることはできないといわざるを得ない。
例外的に生計維持関係が認められる場合
夫からのDV被害が原因により別居していた場合、経済的援助や音信・訪問の要件を満たしていなかったとしても、例外的に生計同一関係が認められることがあります。
【対象となるDV被害者の方】
● DV防止法に基づき裁判所が行う保護命令に係るDV被害者の方
● 婦人相談所、民間シェルター、母子生活支援施設等で一時保護されているDV被害者の方
● DVからの保護を受けるために、婦人保護施設、母子生活支援施設等に入所しているDV被害者の方
● DVを契機として、秘密保持のために基礎年金番号が変更されているDV被害者の方
● 公的機関や公的機関に準ずる支援機関が発行する証明書等を通じて、上記に準ずると認められるDV被害者の方
【手続きに必要な書類】
通常の年金請求に必要な書類のほか、以下の書類が必要になります。
・ DV被害者であることが確認できる証明書※
・配偶者と住民票上の住所が異なった日が確認できる住民票等
・DV被害等に関する申立
※ DVを契機として、秘密保持のために基礎年金番号が変更されているDV被害者の方については、証明書の提出は不要です。
【請求に当たっての留意事項】
・DV被害により配偶者と別居されている方については、別居期間の長短、別居の原因や解消の可能性、経済的な援助や定期的な音信・訪問の有無等を総合的に考慮して、遺族年金を受給できるかどうかを判断します。
・ 過去に遺族年金を受給できないと判断された場合でも、DV被害に関する新たな書類の提出があれば、再度、遺族年金を請求できます。
動画で解説
専門家からのアドバイス
別居している方は、妻だからといって遺族年金が必ずもらえるわけでなく、経済的援助や定期的な音信・訪問が無ければ遺族年金はもらえなくなるということを覚えておいた方がいいと思います。
そして、これまで現金手渡しで生活費をもらっていたような方は、証明資料として残すため、口座振込みに変更された方が良いでしょう。