事例集

【重婚的内縁関係】26年同居していた事実婚の妻に遺族年金の受給が認められた事例

公開日: 2021年1月15日
更新日:2021年1月15日

【社会保険審査会裁決事例】※当センターがサポートした案件ではありません。

平成26年(厚)第616号  平成27年2月27日裁決

主文 厚生労働大臣が平成〇年〇月〇日付で再審査請求人に対してした、原処分を取り消す

事案概要


亡Aが死亡したため、内縁の妻が遺族厚生年金を請求したところ、「亡くなったA様と戸籍上の配偶者との婚姻関係が形骸化しているとは認められないため。」という理由で、遺族厚生年金を支給しないとした処分を不服として、社会保険審査会に再審査請求をした事案。

争点


亡Aと戸籍上の妻との婚姻関係がその実態として全く失っていたものとなっていたか否か


結論

亡Aと戸籍上の配偶者との婚姻関係はすでに実体を失って形骸化していたと認めるのが相当である。請求人は、亡Aの死亡当時同人と婚姻関係と同様の事情にあった者であり、かつ、同人によって生計を維持していたものであるから、同人の死亡による遺族厚生年金の受給権を有することになる。よって、請求人に対し遺族厚生年金を支給しないとした原処分は妥当でなく、これを取り消すべきである。

 本案件のポイント


重婚的内縁関係においては、まず、故人と戸籍上の妻の婚姻関係が実態を失っていたかが争点となります。

そのため、いくら内縁の妻が状況的に内縁関係と認められる関係であっても、故人と戸籍上の妻の婚姻関係が実態を失っていなければ遺族年金の受給は認められません。

「婚姻関係が実態を全く失っているものとなっている時」とは、次のいずれかに該当する場合をいいます。

ア 当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき

イ 一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって、その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し、当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められるとき
 

「夫婦としての共同生活の状態にない」といい得るためには、次に掲げるすべての要件に該当する必要があります。

① 当事者が住居を異にすること。

② 当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと。

③ 当事者間の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこと。


本案件が、「亡Aと戸籍上の配偶者との婚姻関係はすでに実体を失って形骸化していたと認めるのが相当である」と判断されたポイントは、以下の通りです。


・亡Aは、戸籍上の妻と26年別居していた。内縁の妻との26年の同居が認められる。

・戸籍上の妻が居住していた住宅について、故人が住宅ローンを支払っていたが、住宅ローンの債務者が自らの債務の支払をするのは当然のことであり、住宅ローンの支払いの事実をもって、戸籍上の妻への生計費補助あるいは婚姻費用分担の趣旨と見ることは困難。

・亡Aと戸籍上の妻との音信、訪問については具体的に述べるところはない。

・亡Aの葬儀の喪主にはならず、訃報が亡Aの妹から連絡があったと述べ、葬儀に行くまでは請求人及び子のCの存在を知らなかったと述べているが、亡Aと夫婦の実体があれば、そのようなことを述べることは通常あり得ない。

・戸籍上の妻は、亡Aの闘病や障害年金請求の経緯について何も述べていない。

10年以上の別居が認められ、経済的援助に関しては住宅ローンの支払いは経済的援助として認められず、音信・訪問についても行われていたとはいえない。また、亡Aに関しての生活状況について何ら知り得ていないことから、
婚姻関係はすでに実体を失って形骸化していたと認めるのが相当と判断されています。



【社会保険審査会裁決より抜粋】

認定基準によれば、「届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているとき」とは、前記3の①または②のいずれかに該当する場合をいうところ、上記1で認定した事実から、亡Aと利害関係人は、亡Aが死亡するまでの26年間にわたって別居していたことが認められる。

なお、利害関係人は、回答書において、別居した時期は平成○年○月○日である旨回答しており、利害関係人の住民票上の住所が同日に、○○市に移転されていることは上記認定のとおりである。しかしながら、回答書によると、利害関係人は、別居生活の解消を話し合い、努力を行ったかとの問いに対しては、「H○.○までの間に、話し合いの場を設ける努力をした。」と回答しており、その趣旨からすれば、亡Aは平成○年○月よりも前に利害関係人と別居していたことが認められるのであり、別居の時期が同年○月○日であるとの利害関係人の回答は、採用することができない。

そして、上記認定のとおり、亡Aが、利害関係人が平成○年○月まで居住していた○○町の居宅に係る住宅ローンを銀行預金口座引き落としの方法にて支払っていたことが認められるが、そもそも、これは、亡Aを含む兄弟が、父から土地を贈与されたことから、兄弟が受贈した土地に、それぞれの住宅を建てることとなり、亡Aも○○町の住宅を建築したが、その資金に充てるために、a銀行から住宅ローンを借りて、その支払をしてきたものと認められるのであり、上記の事情からすれば、当該住宅ローンの債務者は亡A自身であると認められるところ、住宅ローンの債務者が自らの債務の支払をするのは当然のことであり、住宅ローンの支払いの事実をもって、○○町の住宅に居住していた利害関係人に対する生計費補助あるいは婚姻費用分担の趣旨と見ることは困難というべきところ、請求人は、審理期日において、利害関係人が現在は○○町の住宅に居住していないのは、亡Aの兄弟から、亡Aの看護もしないのになぜ○○町の住宅に住んでいるのかと咎められたからのようであると陳述していること、利害関係人が平成○年○月○日に住民票上の住所を○○市に移転していることをも併せると、上記住宅ローンの支払いを利害関係人に対する生計費補助あるいは婚姻費用の分担であると認めることはできない。

また、利害関係人の回答書によると、亡Aとの音信、訪問については、「主人の体調がよい時にBの職場へ来て、2人でよく買物をしていたそうです。」と亡AとBとの音信を伝聞形で述べるに止まっていて、亡Aと利害関係人との音信、訪問については具体的に述べるところはない。

そして、亡Aの葬儀については金銭の関係から喪主とはならず、訃報は亡Aの妹から連絡があったと述べ、葬儀に行くまでは、請求人及び子であるCの存在を知らなかったと述べているのであるが、亡Aと利害関係人との間に夫婦としての実体があったのであれば、利害関係人が上記のようなことを述べることは、通常ではあり得ないものと考えられる。

そして、死亡診断書によると、亡Aは、脳出血後遺症を縁由とする慢性腎不全により、5年3月の闘病を経て死亡したことが認められるところ、請求人は、亡Aは平成○年○月○日に脳出血を発症したと陳述し、亡Aに係る受給権者原簿記録回答票(失権・基
礎)によると、亡Aは初診日を同日とし、障害認定日を当該初診日から1年6月後の平成○年○月○日とする傷病(傷病コード07(脳血管疾患))により障害の状態にあるとして、同年○月○日に障害基礎年金の裁定を請求し、同年○月○日に受給権発生日を同年○月○日とする障害等級2級の障害基礎年金を裁定されていることが認められるのであるが、利害関係人は、回答書において、これらの経緯や亡Aの傷病については何も述べるところはないのである。

以上の諸点を総合して考慮すると、亡Aが利害関係人と別居し、請求人と同居していた期間は26年であり、その間の亡Aと利害関係人の積極的な交流も窺えず、夫婦としての共同生活が行われていない状態があまりに長期間固定しており、将来の修復を予測することはできなかった事情にあったといえるから、亡Aと利害関係人との婚姻関係はすでに実体を失って形骸化していたと認めるのが相当である。
 

 

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